沖縄県の水産業と赤土汚染
1.はじめに

2.赤土汚染の経緯

3.赤土土壌の性質

4.水産業への影響

5.これまでの取り組み

6.問題解決へ向けて(まとめ)

7.状況写真

1.はじめに

私達の先祖は、遥か遠い海の彼方をニライ、カナイと称し、豊饒をもたらす神の住む国と崇め、人々の精神的支柱として時を重ねて来た。

海は私達に生活の糧をもたらし、先人は、その開拓にロマンを抱き「舟々万国津梁となす」に例えられるようにくり舟を操り南方諸国を闊歩しウチナー海人の名を馳せてきた。

琉球列島の島々の景観の良い小高い場所から海を眺めると、たいていは沖合に白波のオビが見える。それがリーフ(礁原)と言われるサンゴ礁群であり、夏は台風、冬は強く吹きつける北風による大波を打ち砕く防波堤となり、リーフ内は生物達の安住の地となっている。

また、沖縄のサンゴ礁の海は美しく見る者を魅きつけ、そこに生きる喜びを人々に与えてくれた。海に生きる者にとって、そこは食料の自然の貯蔵庫であり海の畑でもあった。人々は海に寄り添い、海からの恩恵を受け取りながら海を守り海と共生してきたのである。

2.赤土汚染の経緯

ところが、その海が近年劇的に変化してきた。沖縄は亜熱帯気候の条件下でしばしば強い降雨に見舞われるが、この降雨によって赤土土砂が流出し、透明で透き通った海の水は濁り、サンゴ礁の生物達の姿も激減した。

赤土土砂流出は、直接的には沖縄の有する土壌、降雨特性等の自然的な要因によるものであるが、1972年沖縄の祖国復帰後、「本土並み復興」の掛け声のもと押し進められた産業基盤整備事業等の開発行為による人為的な要因がこれらに拍車をかけ、更に赤土汚染を助長している。また、我が国唯一の亜熱帯地域に属し、特有の地形と土壌を有した我が沖縄県において、本土土木建築工法をそのまま持ち込み開発を進めたことが、赤土汚染を深刻化させた最大の原因であると思われる。

自然的要因

 +

人為的要因

・土壌の性質

・降雨量

・陸の地形

・土地改良 農地等

・各種土木工事等

・米軍演習等

赤土汚染

トップへ

3.赤土土壌の性質

沖縄県に於ける土壌は本島中北部地域及び離島地域に分布する赤黄色の「国頭マージ」と、南部地域で見られる暗赤色の「島尻マージ」の大きく2つに分けて見ることが出来る。このうち、沖縄県全土の約55パーセントを占めている国頭マージは粘着性が弱くバラバラになり易いため侵食を受け易く、細かい土壌粒子は沈澱しにくい等の性質が有るため、一旦流出した赤土は短時間の間に海へ流出するという性質を持っている。このため、引き続き実施される開発行為においては沖縄の特性に応じた有効的な赤土砂流出防止対策を取り込んで行く必要がある。

4.水産業への影響

沖縄の水産業は、これまで沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場の拡大を図りつつ漁業生産の増大を遂げ沖縄経済の一翼を担って来たが、本土復帰後、オイルショックを契機に漁業燃油及び資材費の高騰、加えて沿岸諸外国の二百カイリ以内での操業規制等により、沖縄周辺沿岸域を中心とする漁場利用へと方向転換を余儀なくされた。 このため、沿岸漁業に対する期待と依存度は従来にも増して一層高まり、今世紀における本県水産業の振興発展を図るためには、沿岸漁場の整備開発や養殖業及び栽培漁業を中心とする「つくり育てる漁業」の強力な推進は資源の減少が叫ばれて久しい今日において、取り組まなければならない最重要課題である。

しかしながら、前述したように赤土砂流出等による沿岸海域の汚染は、海の生態系を破壊し、モズク養殖業、魚類養殖業、網漁業といった沖縄の沿岸漁業の振興にも多大な悪影響を与えるばかりでなく、沖縄経済振興の主軸である観光産業にも影響を及ぼしており、このままでは豊かな海の宝庫を失ってしまうことになりかねない。

5.これまでの取り組み

このような状況の中、水産業界においては、赤土流出汚染の実態及び、沿岸海域に対する悪影響について、広く県民に周知及び喚起を促すとともに、海の環境保全を図るための取り組みを行って来た。平成3年12月には県民5万5千人の署名を集め国県の関係機関に対し、「赤土防止条例」の早期制定へ向け陳情要請活動を実施するとともに、県内流出地域における状況調査を行い、その結果を踏まえ、赤土の沿岸海域への悪影響を関係機関に訴え、抜本的な施策を講ずるよう強く求めてきた。

 その結果、平成7年10月には念願の「沖縄県赤土等流出防止条例」が施行され、赤土流出汚染の抜本的な改善が図られるものと期待されていた。しかし、同条例においては、これまで最も赤土流出が顕著である大規模な公共工事等が条例の適応除外にされているばかりでなく、条例施行以前の既存農地が対象にならないことから、条例が施行されて5年が経過した現在も降雨時の赤土流出は断続的に続いている。

6.問題解決へ向けて(まとめ)

以上のことから、同問題の解決へ向けては、官民が一体となり共通認識を持ち、地域自らが環境保全の重要性を再認識することはもとより、行政主導型の実効性の乏しい施策にだけ頼る事なく、水産業界のみならず、海はみんなで守って行くというような、地域主導型の赤土流出防止対策システムを構築して行く必要があると思われる。また、観光立県である我が沖縄県においては、漁業と観光リゾート開発との調和を図りつつ、永久的にこの豊かな沖縄の海を子々孫々まで残していくことは沖縄県民共通の責務であると思われ、今後ともより有効且つ実効性のある赤土流出防止対策の実現へ向け取り組みを一層強化して行くことが重要である。

7.状況(写真)

人里離れた山間部の大規模な土地改良工事から赤土が流れ出す。(本島北部 国頭村)

トップへ

赤土土砂が流出し生態系の破壊された干潟(本島北部 宜野座村)

大量の赤土の流出により豊かだったサンゴも死滅した。(本島中部 沖縄市)

白砂で化粧直しされた人工ビーチの裏側では赤土が大量に流れ出る。(本島北部)

トップへ